サウナで昔話


(北斎漫画より)

『詩集ノボノボ』より

サウナで昔話

 日帰り温泉 サウナ部屋

 「よっこらしょ!」

 関取のようなおっさんが 

 正面にあぐらをかいて鎮座した

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 堂々と二人分を占有し

 まるで 稽古後の相撲部屋

 まわしの代わりに タオルをおいて

 みんな大汗 ゆでタコ寸前

 関取は 大きな声で昔こ語り

 近くに座った幕下と

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 「あの頃はいがったなや〜

 ○○町から○○横丁まで

 夜明けちかくまで呑んだよな

 一晩で 全部の店回るべや、ってな

 ほんでも足んなくて 石巻さ乗り出したり

 鳴子さ そのまま泊まりに行ったりな

 なんだもかんだもねがったなや〜」

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 「いつごろまでだったや〜?」と

 少し細めの幕下が 話を合わせに首まわす

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 「んだな〜 昭和の終わり頃 

 バブル時代はもちろんいがった

 バブルはじけてからも しばらくいがった

 平成6年ぐらいまでかな〜

 公共投資でじゃんじゃか忙しかった

 おれたち建設屋はな

 なつかしいっちゃなや。。。

 そのあと えらい時代になっちまたよな〜」

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 わたしにもよ〜くわかる この話

 男の思い出っていうやつは

 仕事と 酒と 男と女 

 演歌のごとくに

 だれでも 多かれ少なかれ

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 元気だったから

 酒をたらふく呑めた

 仕事が忙しかったから

 酒呑む金にも 余裕があった

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 いい歳をしたおんつぁんたちは

 ノスタルジアが好きなのだ

 男が男として もてた時代がさ

 マッチョのような 豪快な時代がさ

 よ〜く よ〜くわかります

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 だからなんだよな〜

 心のすみっこで

 だれもが 思っているんだ

 『夢よもう一度』って

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 だけどほんとうは

 もどれないんだ あの頃に

 社会だって 自分の胃袋だって

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 話を聞いてて思ったよ

 もう一丁がんばって

 なんとか 見つけないとな〜ってさ

 『新しいやり方』ってもんを

 自分の頭と心にも

 たっぷりと 汗をかいてさ〜