ほほえみ食堂


 (杉浦日向子『江戸アルキ帖』より)

『詩集ノボノボ』より

ほほえみ食堂

 そば屋さん? らしいんだ

 でも 普通の定食も出すんだよな〜

 バイパスに新しくできた食堂

 今日は二回目だ

 
 この前は とっても感じよかった

 今日は もっとよかった

 この前と ほほえみ度数が同じだったから

 
 この店はきれいじゃない

 前はラーメン屋さんだったかな〜

 居抜きで買って 少しだけリフォーム

 
 だけど とっても感じがいい

 みんなで ほほえんでいるんだ!

 どんなときでも

 厨房の中で ちゃかちゃか蕎麦ゆでしてる

 おばさん、いや姉さんまでも

 
 女ものの作務衣というのかな

 和洋折衷 明るい柄の着物着て

 配膳のねえちゃんの あったか〜い笑顔

 なんて 気持ちがいいんだろう

 スナックに来た気がするよ


 えっ どこの店だってほほえんでいるさ、だって?

 それは マニュアルに書かれた

 一瞬だけのつくり笑顔

 ここは とっても自然なんだ

 ほほえみも もてなしも


 こんなことこそ これからの商品なんだよな〜

 成熟社会は サービス業へと

 限りなく近づくらしいから

 
 勘違いしている経営者も多いよな

 同じコンサルばっかり流行るから

 みんな同じ 慇懃無礼なサービスだらけ


 「えらっひゃいまへ こんにちワ!」

 いったいだれが考え出したのか

 くどいお題目を 無愛想な顔でまくしたてる

 会うたびごとに 呪文のように

 こわくてもう行けません

 そんな はやりのチェーン店には


 この店のほほえみは 自然で無理がない

 これなら どこのねえちゃんも あんちゃんも

 みんな りっぱな商品だ

 
 よくは知らないが

 この店のマスターは 石巻から来たらしい

 ひどい被災をしたんじゃないのかな〜

 だからかな〜〜〜