結びのお盆


(鬼首カブトムシ園で。89歳の父と東京のひ孫りゆちゃん)

『詩集ノボノボ』より

結びのお盆

 毎年恒例 夏の参勤交代が終わった

 たった一週間ほどの とても短い参勤交代

 江戸時代なら 五街道をゆっくり

 「下に〜 下に〜」だが

 今の世は あっという間の韋駄天移動

 地べたは高速道路に新幹線

 空なら飛行機、海ならフェリーで瞬速移動

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 現代の参勤交代は

 将軍様の江戸へ参るんじゃない

 全国津々浦々 わがご先祖様の故郷に参るのだ

 それを称して「お盆」という

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 墓から実家へと ご先祖様をお迎えし

 しばらくの間 盆棚で寝泊りしてもらう

 私たちと寝起きをともにして

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 ご先祖様がこの世に来るのは 夕方らしいので

 行き先、帰り道 迷わないようにと 

 昔なら迎え火、送り火の目印たいまつ

 今ではとんと見ることはない

 きっとあの世にもナビができたのだろう

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 さてさて

 私たちの多くが まだ知らないでいることがある

 ご先祖様が毎夏やってくる その意味だ

 みんな ご先祖様を供養するのだと思っている

 ところが違うと 私は気がついた

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 ご先祖様は 線香の香りや盆棚の供え物に

 誘われてくるんじゃないんだと

 お経で癒やされに来るんじゃないんだと

 ではいったい何をしに?

  ☆

 実は 私たちを「結び」に来るんだな〜

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 お盆の花火 村や町の夏祭り

 浴衣を着た若い子や 小さい子らが

 ニコニコしながら祭りに繰り出す

 これぞ ご先祖様の腕の見せどころ

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 (いったい この町のどこに若者が

 こんなにもいたんだろう?)

 友達同士で花火見物

 親や祖父母やいとこ同士との 楽しき語らい

 お国なまりが賑やかに飛び交い

 縦横斜め いろんな「結び」ができてくる 

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 ご先祖様の演出は心にくい

 自分をネタにしながら その実は

 此岸のわれわれに とても大事なことを

 思い出させにやってくる

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 一人一人の命の由来

 だれもが歩みゆく命の終点

 命のはかなさ 切なさ いとおしさ

 なくなった命の追憶 懐かしさ

 そして 

 ふと漂ってくる

 心安らぐ 私たちの「遺伝子の匂い」

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 深層意識は感じていく

 一人一人、たった一つ一つの

 貴重な生命の喜びを

 生命同士がつながる喜びを

 家族や親戚や仲間たちと

 それこそ縦横斜めに 格子のごとく

 結び目でつながる喜びを

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 お盆の大移動はとても大変だ

 でも 決して徒労じゃないと思う

 渋滞だったにしても

 列車がぎゅうぎゅう詰めだったにしても

 たった数日の出会いだったにしても

 きっと 多くの「結び」を得たはずだから

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 ただし ご先祖様はとても「粋」なので

 決して思わせぶりなことなどしない

 彼らが「結び」を与えたなんて

 ほとんど気づかず 盆が終わる

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 私たちがそれに気づくのは ずっと先

 じいちゃん、ばあちゃんと言われるようになった頃

 実は 気づいた人は内緒で協力しているのだ

 ご先祖様の「粋な結び」のはからいに

 このようにして 去年も、今年も、たぶん来年も

 彼岸と此岸が結ばれていく