フカフカまんじゅう

『詩集ノボノボ』より

フカフカまんじゅう

 夏こそ娘たちの季節だ

 ひまわりが 華やかに生き生きと咲き誇る

 陽ざしもまぶしいが 

 娘たちは もっときらめいている

 瑞々しい生命の滴がしたたりおちるようだ

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 久しぶりに わが田舎駅から電車に乗って通勤した

 朝の7時半 いつもなら通勤通学でごったがえす頃

 同じ服装、同じ髪型、同じしぐさの学生たちで

 ところが もう夏休みの真っ最中

 いつもと感じが全然違う

 白黒画面がカラーに変わったような鮮烈さだ

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 おしゃれをつくした娘たちのにぎやかな笑い

 仔猫か 小鳥か 蜜蜂か!

 これから このとっても小さな田舎の駅から

 小牛田で乗り換え、仙台にでも行くのだろう

 畑から採れたて 朝摘みの野菜のように

 とっても新鮮で どこか土の匂いがするようだ

 話しかければ

 「ジェジェジェ」ってでも言いそうな

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 それにしても 今の娘たちは屈託がない

 張りのある「ももた」(太もも)を

 惜しげもなく大胆に 陽にさらしている

 おもわず西東三鬼の一句が

 言葉を換えて ひねりでた

 「おそるべき 君等のももた 夏来る」

 (原句「おそるべき 君等の乳房 夏来る」)

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 向かいの座席に座った娘の

 はちきれそうなももたを チラッと見たら

 数十年前の思い出がよみがえった

 それは フカフカまんじゅう

 これから向かう小牛田駅のすぐそばで

 たしか伊勢や?という食堂でつくっていた

 評判のまんじゅうだった

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 そのまんじゅうは 白と黒の二種類があった

 中国で食べる饅頭とおなじで

 ふわふわフカフカで 中には餡も何も入っていない

 白いのは白砂糖、黒いのは黒砂糖でつくっていたのだろう

 白いほうはケーキのように 頂にでこぼこがあり

 てっぺんに 一個レーズンが乗っていた
 
 黒いほうは 供え餅のように丸かった

 対照的な二種類のまんじゅうは

 東西の横綱のように 互いに相乗効果を出していた

 まんじゅうケースから出る蒸気も新鮮だった

 白い前掛けをした 店の主人も思い出す

 矢沢永吉風だったな〜

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 思い出は連鎖していく

 五十数年前、母の実家は大きな「店や」

 今ならスーパーマーケットだな

 その頃 砂糖は量り売りで売っていた

 縦横一メートルくらいのタンスのような木箱

 表は縦三列のガラス張り

 一列目は白砂糖 二列目はザラメ 三列目は黒砂糖

 ザラメは茶色のビーズのようで

 黒砂糖はゴロゴロした黒い砂岩の塊みたいだった

 それを小さなスコップで取り出し、目方を量る

 ときどき盗みなめしたことを思い出す

 ニコニコしてたしなめる 恰幅のよかった祖母。。。

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 ふと列車の窓に目を向ければ もう小牛田駅

 あったぞ! まんじゅうを出していた食堂の看板が

 すごいものだ。。。

 この店は たぶんもう一世紀近くも続いているはずだ

 多くのおしゃれビギナーの娘らとともに

 向かいのももた娘たちも ここで降りた

 はちきれそうな笑顔で 列車からゴロゴロと

 新鮮な夏野菜たちが 賑やかに転がり出て行った